葬儀費用をめぐるトラブルの実情


遺産分割の案件を扱っていると結構出くわすのが、葬儀費用の負担でトラブルになっているケースです。

例えば、被相続人の預金を引き出して葬儀費用を支出したが、喪主以外の相続人が、金額や使途に疑問を呈し、 支出した金銭を遺産に戻せと主張するケース、 あるいは、喪主を務めた相続人が自腹で葬儀費用を支出し、他の相続人にも応分の負担を求め、遺産分割協議の中で精算を要求したが、他の相続人がこれに応じないというようなケースです。

いずれも、「金額が高すぎる」とか、「領収証を出せ」「紛失したから出せない」といったやりとりで紛糾する例が多く、 その結果、本丸である分割協議に入れないとか、分割協議に入ったとしても、ことある事に葬儀費用の話が出てきて紛争が再燃して頓挫し、いつまでたっても分割協議が終了しないという例が見られます。

なぜこんなにトラブルの要因になるのでしょうか。いったい、法律や裁判例は、どうなっているのでしょうか。



葬儀費用の負担に関する考え方


実は、困ったことに、葬儀費用を誰が負担すべきかという点については見解が割れていて、基準が明確に定まっていません。

考え方としては、「葬儀参加者が持参する香典は、葬儀主宰者(喪主)の費用負担を軽減させてあげる趣旨で贈与されるものだから、喪主に帰属する。 香典が喪主に帰属するのであるなら、そのこととのバランスから、葬儀費用は喪主が負担すべき」という見解が有力なようですが、 香典を辞退する方式の葬儀もありうるところで、一般化はできないように思います。



葬儀費用をめぐるトラブルを避けるためには・・・


このように、ルールが明確でないというのは困った事態ですが、だからこそ、葬儀費用の問題が尾を引いて遺産分割協議が紛糾するという事態を避けるという観点から、 費用を故人の遺産から支出するにせよ、喪主の方が自己資金で出すにせよ、注意を払う必要があるといえるでしょう。

具体的には、喪主を務められる相続人の方が、他の相続人に対し、費用の概算、どこから支出するか、葬儀の方式、想定される参列者の人数(香典の額の概算が分かる)等の情報をできるだけ事前に開示し、 概ね了解を得ておくこと(了解とまではいかないまでも、伝えておくだけでも無意味ではないでしょう)がよいのではないでしょうか。

また、喪主以外の相続人の方は、積極的に手伝うなどして、喪主の負担ができるだけ少なくなるような配慮をしてあげて、喪主の方に不公平感が残らないように努める必要があるでしょう。 この問題は、こうした配慮によってしか、予防できないように思います。

なお、葬儀費用の負担の問題としては、純粋な「葬儀」の費用だけではなく、法要等の費用も争いになることがあります。 こうした費用も、遺産から支出したりすると、後日遺産分割協議の際に紛争になることがありますので、注意が必要です。