相続人に認知症が疑われる人がいたら・・・


これも、高齢化が進んだ現在、多く相談が寄せられるテーマです。



典型的なケースを挙げると、Aという人が死亡し、相続人は、妻のB、子のC、Dの3名、妻のBは高齢で意思疎通が難しく、認知症が疑われる状態、というものです。

この状況で、B、C、Dの3名で遺産分割協議ができるか、やってしまって問題はないか、これが、ここでの問題です。


相続人に認知症が疑われる人がいる場合の遺産分割協議


遺産分割は相続人全員で行う必要がありますから、Bさんが意思疎通が難しい状態だったとしても、Bさんを除外して遺産分割をすることはできません。

加えて、遺産分割協議は、売買などと同様、相続した財産を処分する行為ですから、各相続人がその内容を理解した上で行うのでなければ、効力は認められません。

Bさんが認知症の可能性があるというのであれば、遺産分割協議を行ったとしても無効とされる可能性がある、ということになります。


後見人選任の申立て


そこでどうするかですが、これは、結構大変です。

Bさんの症状の程度にもよりますが、「後見開始審判」等という、Bさんの財産を管理する人を選任してくれ、という手続を家庭裁判所に申し立てる必要があります。

家庭裁判所が後見人を選任すれば、その後見人がBさんを代理して遺産分割協議をすればよいのですが、問題は、誰が後見人になるか、です。

財産管理というのは、プライバシーにも関係しますし、Bさんの財産管理は、Bさんが亡くなるまで続きますから、後見人は、やはり親族がふさわしいでしょう。


相続人が後見人になる場合〜もう一人代理人が必要になる


しかし、Bさんと共に故人を相続するC、Dが後見人になってしまうと、これまた、問題が発生します。

BさんとC、Dは、遺産という1つのケーキを取り合う関係にあり、法律上は利害関係が対立するので、CあるいはDが、Bさんを代理して遺産分割協議をすることはできません。
「親の財産をどうこうするわけないじゃないか」という意見もありそうですが、結構ドライなんですね、この辺は。家族単位ではなく、個人単位で考えるのが裁判所だと理解するのがよいでしょう。

従って、仮にCあるいはDが後見人になる場合、Bのために遺産分割協議だけを行うピンチヒッターのような人を、もう1人別に選任します。
これを、特別代理人と言います。この特別代理人が、Bさんに代わって、C、Dと遺産分割協議をするわけですね。

この特別代理人を誰にするかというのが、また問題になるわけですが、Aの相続に関係のない親族にお願いするのが通常です。

選任手続は家庭裁判所に申し立てて行いますが、Bさんの利益が損なわれないよう、分割協議案に裁判所のチェックが入ることは覚悟する必要があります。
特に理由もないのに、Bさんの相続分をゼロにするなどしてしまうと、是正を求められる可能性が高くなります。


面倒だからといって・・・


このように、正規の手続を踏むと、結構大変です。

そのため、上記の事例のようなケースでは、事実上、C、Dのみで遺産分割をやってしまうということが、結構行われているように思います。
分割協議書だけはBも加えた3名で作り、事実上はC、Dのみで遺産分割をやってしまうわけですね。

不動産登記が必要になる場合は、司法書士の先生が意思確認をされるでしょうから、こういうことは困難でしょうが、 遺産が預貯金のみという場合には、書面のチェックだけで手続ができてしまうため、事実上可能です。

C、D間の関係がこの先もずっと円満ならば、事実上問題にならずに済むのでしょうが、どちらかが後から遺産分割の結果を不満に思い、 「あの時の遺産分割は無効だ」とか言い出すと厄介です。そうした観点からも、手続は慎重に進めた方がよいかも知れませんね。